長尾軍が魚津城に到着した、丁度同じ頃・・・。
ここは越中最大の要害と謳われし富山城。
神通川の流れを城の濠として利用し、まるで川に浮いてるかのように見えた為、
人々からは「浮城」と呼ばれていた。
当時、この富山城の城主であった神保長職(じんぼう ながもと)は、その日、密偵の報告により、魚津城に長尾景虎の軍が到着していた事を聞きつけていた。
|||9;‘_ゝ‘) <参ったなぁ・・・・。
|||9;‘_ゝ‘) <長尾が応援に来るとか・・・予想はしてたけどさ。絶対勝てないじゃん!!絶対勝てないじゃん!!
神保長職は櫓の上から神通川の流れる濠を見降ろし、大きくため息をついた。
再三、長尾からは「椎名に威圧をかけるのはやめろ!」と忠告されてきたが、それを無視し続けていた。
ともなれば、こう言う展開になるのは解りきってはいた事なのだが・・・。
今更ながら、「おとなしく長尾の言う事聞いてりゃ良かったかも・・・」と、後悔しまくりなのであった。
|||9;‘_ゝ‘) <でも・・・長尾は義に厚いらしいから・・・ちゃんと謝ればもしかしたら・・・
弱気になり、神保が思わずそう呟いた瞬間・・・
「長尾になんだって?」と、櫓の下から威嚇するような声が聞こえ、神保は思わず肩を震わせたのであった。
|||9;‘_ゝ‘) <いぇ?!
|||9;‘_ゝ‘) <あ、あんたは・・・・た、武田の・・・。
从o゚ー゚从つ<どーもどーも。
|||9;‘_ゝ‘) <え、えっと・・・。
从o゚ー゚从<自分の名は、加納であります!以後、お見知りおきを・・・・
そう言って、その加納と名乗る男は、
不敵な笑みを浮かべながら、神保のいる櫓に昇って来たのであった。
从o゚ー゚从<で・・・長尾になんだって?神保殿?
|||9;‘_ゝ‘)∩<え?!い、いえいえ、なーーんも言ってませんよ!!
从o゚ー゚从<まぁ、それならいいんですけどね。
从o゚ー゚从つ<なんか噂によると、長尾が援軍に来たらしいですね。
|||9;‘_ゝ‘) <そ、そうなんですよ!!!
|||9;‘_ゝ‘)∩<あんたらの言うとおり、椎名家にちょっかい出し続けたせいですよ!!どーしてくれるんですか!!!
从o゚ー゚从つ<いやいや。武田のせいではありませんよ。
从o゚ー゚从<あんたが「越中の支配」を望んだから、「武田が手を貸して」あげてるだけです。
|||9;‘_ゝ‘)つ<だ、だったら・・・うちにも武田から援軍を送ってくださいよ・・・。長尾みたいに・・・。
|||9;‘_ゝ‘) <うちらの軍勢だけじゃ、長尾に勝てないですよ・・・。
从o゚ー゚从<いやぁ。武田も今、色々忙しいでありまして・・・。
从o゚ー゚从つ<なので、代わりに・・・本願寺に話をつけときましたであります。
|||9;‘_ゝ‘)<本願寺?!
从o゚ー゚从つ<一向衆があんたらに加担してくれます。心強い援軍になるでしょ?
|||9;‘_ゝ‘)<加賀一向衆か・・・。
加賀の一向一揆の総本山であった御山御坊。
その当主でもある、本願寺顕如と武田晴信は親戚関係にあった。
それ故、当時、信玄派の神保家に、本願寺率いる一向一揆衆は加担をしていたのであった。
从o゚ー゚从∩<それでは、自分はこれにて失礼するであります。
|||9;‘_ゝ‘)<え?!もう、戻るんですか?!
从o゚ー゚从<えぇ。今日は、一向宗が味方に付いている事を、お伝えに来ただけでありますから。
从o゚ー゚从<まぁ、せいぜい、御武運をお祈りいたします。
そう言って、
さっさと富山城を去って行く加納。
その後ろ姿を見送り、神保は思わず舌打ちをするのであった。
|||9;‘_ゝ‘)<ちぇっ!戦に巻き込まれる前に、逃げやがって・・・。
|||9;‘_ゝ‘) <くっそぅ。長尾は椎名の援軍に来てくれるのに、武田は来てくれないのかよぉ・・・
|||9;‘_ゝ‘) <でも。とりあえず、一向一揆衆が味方してくれれば・・・なんとか長尾と渡り合えるかもしれない。
こうして・・・。
長尾を後ろ盾に得た椎名と、一向一揆衆を味方に付けた神保の戦いは幕を開けた。
この椎名と神保の争いは、表だっては『椎名VS神保』であったが・・・
これは言うなれば、『長尾と武田』の代理戦争なのであった。
この頃から、上杉と武田の宿命の対決は、始まっていたと言えるであろう・・・。
3
長尾軍が魚津城に到着してから、3日が過ぎた。
出陣の準備も終わり、いよいよ、長尾軍による、富山城攻略が始まろうとしていた・・・。
攻略の当日。
まだ、夜も白み始めたばかりの早朝。
初めての戦を目前にどうにも落ち着かない小宮は、魚津城の井楼矢倉に昇り、富山湾を一望していた。
ル*’ー’リ<わーーー!!海、広いなぁ〜〜〜!!!!
ル*’ー’リ∩<早朝の海、むっちゃ気持ちいい〜〜!!!!
ル*’ー’リ<・・・・・・・・・・。
ル*’ー’リ<あれ!!ってか、もしかして、あれ・・・!!!
井楼に座り、ぼんやりと海を眺める小宮。
その瞬間、小宮は海の沖合で起こる、ある現象に気が付いた。
すると、その時・・・。
川*^∇^)<小宮殿、こんな所でどうなされた?
ふと聞こえた声。
小宮が矢倉から下を観降ろすと、熊虎が不思議そうに矢倉の上の小宮を見上げていた。
ル*’ー’リ<あ、熊虎様!!
ル*’ー’リつ<なんか、早朝の海、綺麗だなぁって思って・・・・。
川*^∇^)<そうでしたか。
川*^∇^)∩<明け方の海はよろしいものです。
川*^∇^)つ<私も登ってもよろしいかな?
ル*’ー’リつ<え?!は、はい!!勿論です!!どうぞ、どうぞ!!!
そう告げると、梯子を上り、矢倉の上に立つ熊虎。
熊虎が下にいた時は、見降ろしていた状態だったが、同じ高さに立つと、背の低い小宮は途端に熊虎を見上げる形になる。
小宮はその身長差に、改めて熊虎の背の高さとイケメンっぷりを感じながら、熊虎に言葉をかけるのであった。
ル*’ー’リ<海、きらきらして、綺麗ですね。
川*^∇^)<そうですな。実に海は、広くて気持ちが良い。
ル*’ー’リつ<あの・・・熊虎様。ほら、あっち見て下さい。凄いですよ・・・・。
川*^∇^)<ん?凄い?
ル*’ー’リ∩<あれ・・・蜃気楼ですよね!!景色が逆さまにうつってる。
川*^∇^)<え?しんき・・・ろう?
川*^∇^)<・・・・・・・・・・・・。
Σ川;^∇^)つ<ま、まことですな!!!山が逆さまに観えておりまするぞ!!!
そこに見えるのは、
富山湾の対岸の風景が、実像とは別に虚像が逆さまに映り込んでいる・・・実に不思議な光景であった。
これは空気の温度の違いによって生じる、「蜃気楼」と言う光の屈折現象なのだが、
「蜃気楼」なんて言葉を知らぬ熊虎には、まるで神の仕業のような衝撃を受けるのであった。
川;^∇^)<す、すごい・・・・。
川;^∇^)つ<あそこに逆さまに映る「蜃気楼」なるものは、もしや、神の国で御座いますか?!
ル;’ー’リ<はい?神の国?なんで?
川;^∇^)<増長天様の住まわれる、神仏の国で御座いますか!?
ル;’ー’リ oO(あ・・・・そーいえば、そんな設定だったけ?うちらって?忘れてた・・・)
川;^∇^)つ<蜃気楼と申す、あれこそが、天国でありましょうか?
ル;’ー’リ<えーーと。て、天国ってワケでは・・・・。
しばし返答に困る小宮。
蜃気楼の説明をしようにも、この時代の人に「光の屈折現象」とか言っても通じそうもない。
なんと説明しようか考え込む小宮の隣で、熊虎は勝手に、逆さにうつるあの世界が「天国」であると、納得している様子であった。
川;^∇^)<天国がまさか、このような場所から観ることが出来るとは・・・。
川;^∇^)<・・・・・・・・・・・・。
川;^∇^)つ<なれば。兄上も・・・あちらにおられるのであろうか?
ル;’ー’リ<ん?お兄さん?お兄さんいるんですか?
熊虎の呟きを聞き、思わず聞き返す小宮。
あまり歴史に造詣のない小宮は、あの上杉謙信に兄がいるとか、考えた事もなかったのであった。
小宮の何気ない問いかけを聞き、熊虎はふと表情を曇らせると、小さくコクリと頷いた。
川;^∇^)<・・・・・・・・。
川;^∇^)<『居る』と言うよりも、『居た』と言うべきでしょうか・・・。
ル;’ー’リ<・・・・・・え?
ル;’ー’リ<あ!!・・・・・それってもしかして・・・もう・・・。
ル;’ー’リ∩〃<す、スイマセン!なんか、余計な事を聞いてしまって!!浜名湖より深く、スイマセン!!
熊虎の返答から、熊虎の兄が「この世にいない」ことを悟る小宮。
凄く余計な事を聞いてしまった気がして、思わず、直虎ちゃん(戦国無双)ばりに謝る小宮であったが、
熊虎は笑顔を浮かべ「いえ・・・構いません。」と頭を振ると、
川;^∇^)<・・・・・・・・・・。
川;^∇^)つ<それに出来たら・・・そなたに聞いていただきたい。
川;^∇^)<神の使い・・・増長天である、そなたに。
ル;’ー’リ<え?私にですか?
川;^∇^)<兄上の話は誰も聞いてくれない。姉上も、宇佐美も。兄上の話をすると、みな、良い顔をせんのじゃ。
ル;’ー’リ<・・・・・・・どうしてですか?
川;^∇^)<私が兄を隠居に追いやって、越後守護代の座を奪い取ったからじゃ。
ル;’ー’リ<え?く・・・熊虎様が・・・・お兄さんから・・・奪っ・・・た?!
小宮が出会ってから今までの間、
驚くほど温和で優しかった、未来の上杉謙信である長尾熊虎。
確かに小宮も、歴史とかで習っていた軍神・上杉謙信の激しいイメージとはあまりにも違う温和で物腰の柔らかい感じに、
最初は・・・本当にこの人は上杉謙信なのだろうか・・・?と、疑問にはおもっていたのだが・・・。
この優しい熊虎にすっかり慣れてしまい、また、この優しい熊虎に好意を抱いてしまった今となっては、
「兄を隠居に追いやる」や「越後守護代を奪う」と言う、戦国大名らしい激しさに、逆に驚きを覚えてしまうのであった。
ル;’ー’リ<熊虎様が・・・お兄さんの地位、奪った・・・・って・・・本当ですか?
川;^∇^)<あぁ。・・・・・・・・・・・・結果的に、奪った事になるな。
川;^∇^)つ<だが、本当は、私は兄の守護代の座を奪いたくなんてなかった。
川;^∇^)<私はただ・・・・兄の影で居たかったんだ。兄を影から支えたかった・・・ただ、それだけだったのじゃ・・・。
ル;’ー’リ<・・・・・・・・・・・・。
川;^∇^)つ<私がこう言うと、姉上も宇佐美も、みんな怒る。
川;^∇^)<兄上は愚鈍な守護大名だったから、地位を奪われて当然だった。兄上・・・長尾晴景の話は、もう、するな・・・と・・・。
川;^∇^)つ<でも、私にとっては・・・林泉寺に預けられ、仏門に入れられていた私を、長尾家に呼び戻してくれた・・・大切な兄者じゃ。
川;^∇^)<・・・・・・・・私は、私を長尾家に戻してくれた兄上の為に・・・兄上の恩に報いる為に・・・・刀を振るいたかったのじゃ。
川;^∇^)<なのに・・・・私が結果的に、兄上を隠居に追いやり、兄上の地位を奪った・・・。
ル;’ー’リ<・・・・・・・・・・・・・。
遥か遠く。
海上に浮かび上がる蜃気楼を眺めながら、熊虎は1人、語っていた。
歴史に疎く、状況もさっぱり解らない小宮は、熊虎の話を聞いても、熊虎と晴景の間に何があったのか想像もつかなかった。
熊虎も恐らく、小宮に、兄を隠居に追いやって地位を奪った経緯を知ってもらうつもりはないのであろう。
ただ、誰かに・・・自分の本音を伝えたかっただけなのかもしれない。
自分は兄を追いやる気はなかった。本当は自分は、大切な兄の為に戦いたかった・・・それを、誰かに聞いて貰いたかっただけなのだろう。
いや。もしかしたら・・・・神を名乗る小宮に聞いてもらい、神の赦しを請いたかったのかもしれない。
ル;’ー’リ<熊虎様・・・・。
川;^∇^)<兄は、私を恨んで死んだのだろうか・・・?
ル;’ー’リ<・・・・・・・・・・。
ル;’ー’リ<それは、私にも解らないけど・・・。
川;^∇^)<?
ル*’ー’リつ<亡くなったお兄さんはきっと、天国である・・・あの蜃気楼の中にいるんでしょ?
ル*’ー’リ∩<だったら、今度。この増長天様が、天国に戻った際、お兄さんに言っといてあげるよ。
ル*’ー’リつ<『熊虎を恨んじゃだめだよ?熊虎はお兄さんを誰よりも大切に思ってたんだよ?』って!!
Σ川;^∇^)<まことですか!!!
ル*’ー’リ<うん。誤解を解いてあげるから・・・だから安心して。熊虎様。
川;^∇^)<おぉ・・・・ありがとうございます!!!!
そう言って、
熊虎はその場に両膝を付くと、小宮に向かって、深く頭を下げた。
Σル;’ー’リつ<そ、そんな大げさな!!!頭をあげてくださいよ!!
川;^∇^)<・・・・・・・・・・小宮殿。感謝致す。
深く詫びを入れる熊虎。
そして、おもむろに立ち上がると、熊虎は目線を海上から陣中へと向けた。
矢倉から見下ろした陣中は、出陣を前に、いそいそと人々が行き交っていた。
川*^∇^)<では。もうすぐ出陣ですな・・・。
ル;’ー’リ<・・・・・・・・・・・そうですね。
川*^∇^)つ<そなたのお陰で、迷いが晴れもうした。感謝する・・・。
川*^∇^)<では・・・また後に。
そう言って、
矢倉を駆け下りて、陣中へと向かう熊虎。
その後ろ姿を見送りながら、小宮は小さく、はぁ・・・と息を付いた。
ル;’ー’リ<なんか、テキトーなこと言って、騙しちゃった気分だなぁ・・・。
ル*’ー’リ<でも、結果的に、気持ちが晴れたって言ってるから・・・結果オーライかな?
ル;’ー’リ<だけど。あの優しい熊虎様とお兄さんの間に、何があったんだろ?
ル;’ー’リ<あの優しくてお人よしそうな熊虎様が、お兄さんの守護代の座を奪った・・・か。
ル;’ー’リ<そうだよね。あんなに優しい熊虎様だけど・・・・ここは、戦国時代なんだもんね。
ここまで戦いがなかったから、なんとなく実感がなかったけど。
ここはあくまでも、戦国時代。人と人が殺しあう世界なのだ。
あの優しい熊虎だって、戦ともなれば、当然人を殺しているのであろう。ここは、そう言う世界なのだ。
なれば、あの優しい熊虎が身内と家督争いをしていたって、なんら不思議ではない。
ここは戦国時代なのだから・・・。
ル;’ー’リ<・・・・・・・・・。
ル;’ー’リ<そっか、これから、殺し合い始まるのか。
ル;’ー’リつ<自衛隊の救護班に入って・・・まさか、戦国時代で殺し合いするハメになるとは、思いもしなかったな。
ル;’ー’リ<・・・・・・・・・。
ル;’ー’リ<曹長や上杉や河合は・・・・どうするんだろ?戦うのかな?やっぱ。
遥か沖合に、蜃気楼が揺らめいている。
逆さまに映りこんだ風景。
あの蜃気楼の向こうに、平成の世界があれば、富山湾を泳いででも、蜃気楼の向こうに帰るんだけどなぁ・・・。
そんな事を思いながら、小宮は戦支度をしている、陣中へと戻って行くのであった。
戦いの火蓋は、ついに切って落とされることとなるのであった。
(つづけ)